作品について
弁明(Apologia)は、紀元前399年、不敬と若者を堕落させた罪で告発されたソクラテスがアテナイの法廷で行った自己弁論を、弟子プラトンが記録した対話篇です。死を前にしても妥協せず哲学的な生き方を擁護するこの演説は、西洋哲学の出発点とされます。問答を重ねて相手の思い込みを吟味するソクラテスの姿勢がここに鮮やかに描かれます。Dialogosはこの作品におけるソクラテスの核心思想を引用し、話者「ソクラテス」との対話を組み立てています。
歴史的背景
『弁明』(Apologia)は、紀元前399年、不敬と若者を堕落させた罪で告発されたソクラテスがアテナイの法廷で行った自己弁論を、弟子プラトンが古代ギリシア語で記録した対話篇です。実際の法廷記録ではなく、師の精神を再構成した文学的な弁論であり、自ら一冊も著作を残さなかったソクラテスを知るためのほぼ唯一の出発点となります。死を前にしても哲学的な生き方を曲げないこの演説は、西洋哲学と良心の自由を象徴する古典として読み継がれてきました。日本では久保勉(1883–1972)による岩波文庫『ソクラテスの弁明・クリトン』が長く標準訳として親しまれています。
無知の知
「ソクラテスより賢い者はいない」というデルフォイの神託の意味を確かめようとしたソクラテスは、自分は何も知らないのに知っていると思い込む人々と違い、少なくとも自分が知らないことを自覚している点でだけ賢いのだ、と結論づけます。(21d)
吟味する生
有罪判決のあと、黙って暮らせという提案を退けたソクラテスは、日々徳について、また自分自身について問い吟味することこそ人間にとって最大の善であり、吟味されない生は人として生きるに値しない、と宣言します。(38a)
主な名言
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私がいくらか賢いとすれば、知らないことを知っていると思い込まない、その一点においてだけだ。
プラトン対話篇 · 弁明 · 21d「全部わかっている」という顔より、「まだ知らない」という自覚を先に — 職場で人の話を本当に聞ける人の構え。
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日々、徳について、また自分自身について問い吟味することこそ人間最大の善であり、吟味されない生は生きるに値しない。
プラトン対話篇 · 弁明 · 38a忙しく働くことと、よく生きることは別 — 一日の終わりに自分を振り返る数分が、関係も仕事も変える。
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私は神がこの国に付けた虻(あぶ)だ。眠りかけた大きな馬を、休まず刺して目覚めさせる。
プラトン対話篇 · 弁明 · 30e耳の痛い問いが人を目覚めさせる — 同僚からの率直なフィードバックは、なれ合った職場を揺さぶる刺激。
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私は君たちにではなく神に従う。息のある限り、哲学することをやめはしない。
プラトン対話篇 · 弁明 · 29d周囲の空気より自分の良心の声に従う — 「ここは妥協しろ」という圧力の前で守る一線。
重要な概念
- 無知の知 (docta ignorantia)
- 自分が知らないということを知ること。ソクラテスが自らを「賢い」とみなした唯一の根拠であり、あらゆる探究の出発点。
- エレンコス (elenchos)
- 相手の主張を問いで吟味し、その中の矛盾をあらわにするソクラテス式の反対尋問。真理ではなく誤った思い込みを取り除く方法。
- ダイモニオン (daimonion)
- ソクラテスが従ったと語る内なる神的な合図。何かをせよとは命じず、間違った行いをしようとするときだけ彼を引き止めた。
- 虻 (gadfly)
- ソクラテスが自分自身をたとえた言葉。安住する都市(アテナイ)を絶え間ない問いで刺し、目覚めさせる、煩わしいが必要な存在。
- 吟味する生 (the examined life)
- 徳と自分自身を日々問い吟味しながら生きること。ソクラテスが人間にとって最大の善とみなしたもの。
今日どう活かすか
今日、自分が「当然だ」と思っている職場の前提を一つ選び、「本当にそうか、なぜか」と問い直してみましょう。当たり前にしていた進め方や評価に疑問を一つ添える、その瞬間がソクラテスの無知の知(21d)です。相手を論破するためではなく、自分の思い込みを点検するために問うのがコツです。
そして一日の終わりに90秒だけ立ち止まり、「今日の行動のうち、人間関係や仕事を本当に良くしたものは何で、ただ忙しかっただけのものは何か」を書き出してみましょう。吟味されない生は生きるに値しない(38a)とは、大げさな反省ではなく、流れていく一日に小さな点検の一行を足す習慣のことです。
現代日本語訳ガイド
市販の現代語訳のうち、まず手に取りたい定番を広告なしで中立にまとめました。原文を無料で読みたい方は、下の「パブリックドメインの原文」をご覧ください。
- ソクラテスの弁明(光文社古典新訳文庫)
「ソクラテスの弁明」単独収録(合本ではない)。2012年刊の新訳で、読者を法廷の陪審員に見立てて「いかに生きるべきか」を問いかける。巻末に長大な訳者解説を付す。
- ソクラテスの弁明・クリトン(岩波文庫)
「クリトン」と合本(青601-1)。法廷で堂々と所信を述べる弁明と、死刑宣告後に脱獄を勧める友クリトンとの獄中対話を収める。プラトン初期の古典的定番訳。
- エウテュプロン/ソクラテスの弁明/クリトン(西洋古典叢書)
「エウテュプロン」「クリトン」と3編合本。弁明・クリトンは朴一功訳、エウテュプロンは西尾浩二訳。ギリシア語原典からの学術的な厳密訳で、ソクラテス裁判の前後を一望できる。
Dialogos が出典を扱う方針
Dialogosの応答は、著作権が消滅した原典の思想を現代の日本語で意訳したものであり、著作権のある現代語訳をそのまま転載するものではありません。出典表記(例:21d、38a)は、その思想が現れる節(ステファヌス番号)を指しています。
パブリックドメインの原文
日本語による『弁明』のパブリックドメイン全訳は限られているため、著作権が消滅した英語の標準訳であるベンジャミン・ジョウェット(Benjamin Jowett、1892年訳、1893年没)の翻訳をご案内します。下記サイトで全文を無料で読めます。
- Wikisource — プラトン『弁明』(各種パブリックドメイン訳)
- Project Gutenberg — プラトン『弁明』(ジョウェット訳)
- MIT Internet Classics Archive — プラトン『弁明』(ジョウェット訳)
上記リンクは外部サイトに接続します。PiFl Labs はその内容を管理していません。
よくある質問
プラトンの『弁明』とはどんな作品ですか?
ソクラテスが紀元前399年、アテナイの法廷で不敬罪と若者を堕落させた罪に対して自らを弁護した演説を、弟子プラトンが記録した対話篇です。「無知の知」(21d)と「吟味されない生は生きるに値しない」(38a)という二つの命題が最もよく引用されます。
『弁明』の内容を短く要約すると?
ソクラテスは自分が都市を目覚めさせる「虻」(30e)であって罪人ではないと主張し、死を恐れて哲学をやめるより神に従って真理の探究を続ける(29d)と語ります。有罪と死刑が宣告された後も、黙って生きるより吟味する生を選ぶと宣言します。
『弁明』で最も有名な名言は何ですか?
何といっても「吟味されない生は生きるに値しない」(38a)です。次いで、自らの無知を知ることが唯一の知恵だとする「無知の知」(21d)、自分を都市を目覚めさせる虻にたとえた一節(30e)がよく引用されます。
「無知の知」とはどういう意味ですか?
自分が知らないということを知ることこそ知恵だという、ソクラテスの洞察です(21d)。彼は自分が特別に博識だからではなく、知らないのに知っていると思い込む人々と違い、自らの無知を自覚しているがゆえに賢いと考えました。
『弁明』の著者は誰ですか?
著者はプラトンで、作中で語る話者はその師ソクラテスです。ソクラテス自身は著作を残さなかったため、私たちが知るソクラテスの弁論は、プラトンが記したこの対話篇を通じて伝えられています。
『弁明』は今日なぜ重要なのですか?
権力や多数の圧力の前でも良心と真理の探究を捨てなかった、思想の自由を象徴するからです。批判的思考、自己吟味、信念を貫く勇気というテーマは、2400年を経た今も教育と倫理の出発点として引用されています。
『弁明』の原文を無料で読めますか?
はい。ベンジャミン・ジョウェット(1892年訳)の英訳は著作権が消滅しパブリックドメインなので、Wikisource・Project Gutenberg・MIT Internet Classics Archiveで全文を無料で読めます。下のリンクをご覧ください。
Dialogosは『弁明』をどのように引用しますか?
Dialogosは原典の思想を現代語で言い換えて話者「ソクラテス」との対話を作り、思想が現れる節番号(例:21d、38a)を出典として示します。著作権のある翻訳文をそのまま引用することはありません。